『試戦』

 

「シノンさん! 今度女性と組むって本当っスか!?」

「シノンさん! 今度ネフェニーさんと組むって本当!?」

 

 何でどいつもこいつも。そんなコトがそんなに珍しいか?

 目の前の舎弟と弟子の、驚愕と期待と好奇心に満ちた顔をみながら、シノンはあからさまに不機嫌な顔をしてみせた。

 

「だからどうした」

「本当なんだ・・」

「あのシノンさんが・・」

 ヨファは喜びに、ガトリーは半信半疑な表情に変わる。

 

「嬉しいな♪ 良かったー」

 

 何故ヨファが喜ぶのか、今ひとつ理解できないが、これ以上この話題に関わりたくない。

 しかしそんな雰囲気を読んではくれず、やはり話はそれに繋がってしまった。

 

「でもシノンさんが女性と組むって珍しいっスね。

 オレが知ってる限りでは、ティアマトさんぐらいしか見たことないし」

 

 優秀な騎士であるティアマトと組むのなら異議はない。

 女性云々の前に、彼女にはそれなりに敬意を表しているし、周りも特に気にはしないだろう。

 だが今回の相手は、兵士としては未熟であり、しかも性格が違いすぎる。

 やっていけるのかと心配しない方がおかしい。

 

「うるせえな。もう決まってんだよ」

 様々な問題を、だがシノンは投げやりに返した。

 

「シノンさんはそれでいいんスか?」

「嫌も何も命令だからなあ。下っ端は従うしかねえだろうがよ」

 

 自分の言葉にむかついたのか、舌打ちと共にシノンはそっぽを向く。

 そんな彼の機嫌を直すように、ヨファは近づき言葉をかけた。

 

「あのね。次の作戦には僕も出るんだよ」

「ああそうか。条件には入ってるな」

 今回の作戦加入条件は、迅速かつ機敏な兵だ。

「オレは」

「判ってるよ。お留守番だろ」

「どうせオレはどんくさいですよ・・・」

 言いながら、ガトリーは壁に指で『の』の字を書く。

 不機嫌な大人と落ち込む大人に挟まれ、ヨファは少し辟易した。

 

「もう、ガトリーさんに当たらないでよ。

 ところで。シノンさんはネフェニーさんと一度合わせてみたの?」
「何をだ」

「何をって、お互いの実力とか判んないと大変じゃないか」

「実力って、たかだか一年弱の兵士の実力なんてしれてるだろうがよ。

 俺が合わせるしかねえな」

「でも知ってた方がいいこともあるし。

 ネフェニーさんだって、シノンさんの実力を知ってた方が、やり易いと思うよ」

「そこまで必要かねえ。たかが一回だけ組むだけじゃねえか」

「それでも組むことには変わらないんだから。ね?」

「えらく粘るな。何を企んでんだ?」

 

 ふいをつかれたその言葉に、ヨファはぎくりとする表情を隠せなかった。

 

「けっ。やっぱり何か仕組んでやがったな」

「人聞き悪いこと言わないでよ」

 むくれる弟子に、シノンはほんの少しだけ態度を改める。

「で? 一体俺に何をしてほしいんだ?」

 

「だから・・せっかくネフェニーさんと組むんだから、もっと接してほしいんだ」

「戦場でいくらでも近くにいるだろうがよ」

「そうじゃなくてさ。ネフェニーさんて真面目だしああいう感じだから、いっぱい心配してるかもしれないよ。

 だからちゃんと話あって、お互いをもっと知れば、心配も少なくなるんじゃないかって思って」

「戦はそんな甘いもんじゃねえぞ」

「判ってるよ! でもそれで少しでも良くなるんだったら、した方がいいじゃないか」

 

 日の浅い考え方だ。

 だが、それで通る奴もいる。

 自分には甘すぎて頂けないが。

 

 一つため息をついて、シノンは一言断った。「考えとくよ」

 

「本当!? じゃあネフェニーさんに言ってくる」

「まてこら! 考えとくだけで、するとは決めてねえぞ」

「でもする気はあるんでしょ?

 それに作戦の日までそんなに時間はないし、なら早くしなきゃ」

 

 じゃあねとヨファは駆け出し、あっという間に気配は遠のいていった。

 

「ヨファの勝ちですね」

 何だか和やかなガトリーの顔に、シノンの怒りと腹いせの裏拳が走った。

 

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