『膝枕』 |
「どこ行ったんだ、アイツは」 シノンは陣営内を歩いていた。 きょろきょろと何かを探しているようだ。 この様子に気づいたヤナフが風を切って近づいてきた。 「何か落としたのか?」 「別に」 わざわざやってきた彼にシノンは素っ気無く答えた。 その間もシノンは辺りを見回している。 だが、 「どうしてもっていうならおれの『千里眼』で探してやってもいいけど」 そうヤナフが言うとシノンもようやく彼の方を向いた。 「そうか、んな便利なもんがあったな」 「べ、便利って・・・まぁいいけど」 そうしてヤナフは辺りをぐるっと見渡す。 「で、何を探してんだ?」 「女だ」 「お、女? ガキのくせして生意気な」 からかうようにヤナフは言う。 「なんだ、逃げられたのか?」 「んな訳あるか。・・・今日はまだ見てねえが」 シノンは憮然とした顔をする。 「で、そのお嬢ちゃんの名前は?」 「ネフェニーだ」 「ネフェニー?・・・知らないな」 どうやらヤナフはネフェニーを知らないらしい。 それも無理はないだろう。 常にフェニキス王の側近として控えているのである。 そうそう他の兵士たちと交わることもないだろう。 「だろうな」 「どんな格好なわけ?」 「緑の長い髪の女だ」 シノンが簡単すぎる説明をした。 ただここにはベオクの女性は少ない。 この条件を満たす人間はネフェニーだけである。 「ふーん。・・・・・・あれか?」 「どこだ」 「軍営の端っこ。でかい木の根元にいる」 「わかった」 言って感謝もなく立ち去ろうとするシノンにヤナフは言う。 「おれも一緒にいくぜ」 思わぬ彼の言葉にシノンは振り返った。 「何でだよ?」 「いや、だって別人だと困るだろうし。 ・・・お前の探すそのお嬢ちゃんを見てみたいっつー気もする」 「後の方が本音だな」 「ばれたか。 でも安心しな。お子様にゃ手出ししねーよ」 「誰も心配してねえし」 シノンとヤナフは二人してその方角へと進んでいった。 ネフェニーは木陰で休んでいた。 今日は戦どころか移動もないという。 兜と鎧をはずし、体を伸ばす。 こんな天気の良い日に休みだとはこの上なく嬉しい。 すると、 「ネフェニー」 後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。 振り向かずとも誰かわかる。 「シノンさん」 どうしたんですか?と立ち上がろうとするネフェニーをシノンは手で制した。 そしてそのまま彼女の前にしゃがみ、言った。 「膝かせ」 ネフェニーが何かを言う前に、シノンは勝手に彼女の膝の上に頭をのせ寝転がる。 彼女の方へ頭を向け、ちょうど太ももの間に頭を埋めるような形である。 「ちょ、ちょっと待て!」 勝手すぎる彼の態度に異議を唱えたのは、当のネフェニーではなくヤナフであった。 「何だよ、うるせえな」 薄く目を開け、シノンが返事をする。 だが彼女の上から動く様子ない。 「お前まさか、このために、このお嬢ちゃんを探してたのか?」 ヤナフの質問は最もだ。 広い軍営内を歩いて探すほどに急用があるのかと思えば、こんなことだとは。 大体休むんなら自分の兵舎で十分だろう。 わざわざ探し回り、あげく「千里眼」を使ってまで探す理由がわからない。 「だったら?」 しかしヤナフの気持ちなど一向に伝わらない様子で、シノンは相変わらず寝転んだままだ。 「だったらって・・・」 シノンのさも当然と言わんばかりの態度にヤナフも言葉が見つからない。 何も言わないと思ったのか、彼は背を向けてしまった。 ヤナフは何か言おうと口を開いたが、やはり言葉が出ない。 しかし、何かが納得いかない。 ふと視線を上げると、二人のやりとりをはらはらと見ていたネフェニーがあった。 「お嬢ちゃん、いいの?」 「え?」 「こんな横暴許していいのかって」 腑に落ちないヤナフは今度はネフェニーに聞いてきた。 突然やってきて、一方的に言って返事を待たずに勝手に膝を枕代わりにする男などどうなのか。 傍若無人にも程がある。 だが彼女の答えは、ヤナフにとってシノンの行動以上に予想外のものであった。 「でも、シノンさん。 疲れてる、みたい・・・だし・・・」 ネフェニーは小さな声で答えた。 「いや疲れてるって・・・そうかもしれねえけど・・・」 確かにシノンは連戦続きだと聞いていた。 ネフェニーを含む傭兵団の皆は交替しながら前線に出ているが、シノンと団長のアイクだけはずっと出陣しているらしい。 厳しい戦が続いているが、彼の力量からすればそれも当然のことだろう。 しかし、だったら余計に歩き回らず兵舎で休んでいればいいではないか。 ネフェニーだって疲れているからこそ、ここで一人のんびりしているのだろうし。 わざわざ休んでいるところを邪魔することもないではないか。 ヤナフは再度口を開いた。 が。 膝の上で寝ているシノンと、その彼の頭を撫でるネフェニーを見て。 彼女を見れば迷惑だなんて微塵も思っていないことはすぐにわかる。 結局、彼は何も言わないことにした。 アホらしい。 そう結論付けてヤナフは立ち上がる。 「あ、あの。シノンさんに・・・用があったのでは?」 立ち去ろうとするヤナフにネフェニーが声をかけた。 ネフェニーの深緑の瞳と目が合う。 「ん?いや、いいよ。じゃな」 少し笑って彼は翼を広げ、そのまま空へと飛び立った。 「うーん、まだお嬢ちゃんかと思ったが・・・あれはかなり『いい女』じゃないか」 空中を闊歩しながらヤナフは呟く。 「あいつめ、うらやましすぎる」 |
終わり。 |
ike*3の凛子さんのサイトで企画されていた、 アンケートお礼小説のシノネフェ作品を頂いてしまいました。 あまりにも甘々すぎて言葉に出来ないとはこのことです。 むしろこの小説よんで精も根も尽き果てるほど萌え死んだ。=□○_ ああもう傭兵団一甘い生活送ってるねこの二人。シノネフェ最高。最高! というわけで、萌えすぎて思わず全力疾走で描いてしまった管理人のイラスト置いときます。 イメージ壊しちゃってたらごめんなさい。 ブラウザを閉じてお戻り下さい。 |